仕事

職場で吃音を打ち明けるか - 場面別の伝え方と配慮の頼み方

この記事は約 6 分で読めます

吃音を職場で打ち明けるかは、全員に同じ答えを出さなくていい

朝礼で順番が回ってくる 2 人前あたりから、最初の一語が出るかどうかで頭がいっぱいになる。電話が鳴ると、社名の最初の音で詰まる自分が先に浮かぶ。吃音を抱えて働いていると、仕事そのものより「話す場面をどう越えるか」に力を取られる日があります。

職場で吃音を打ち明けるかどうかは、「全員に話す」か「誰にも話さない」かの二択ではありません。上司にだけ伝える、同じ島の 2〜3 人にだけ伝える、電話の担当を外してほしいという頼みごとだけを伝えて理由は詳しく言わない、という中間の形がいくつもあります。どれを選ぶかは、自分の吃音の出方と、その職場で話す場面の種類で決めるのが現実的です。

打ち明けることは、自分のことを相手に知らせる自己開示の一つです。うまくいけば、詰まった時に周りが黙って待ってくれるようになり、詰まりを隠すために使っていた気力が仕事に戻ってくることもあります。一方で、相手を選ばずに話すと、気を遣われすぎる、話す機会そのものを外される、という別の困りごとが生まれることもあります。

吃音そのものの仕組みや向き合い方は「吃音と共に生きる - 『うまく話せない』自分を受け入れる」の記事に。

伝える / 伝えない / 一部の人だけ - 職場の場面別の判断表

判断の手がかりになるのは、その場面で「言い換えができるか」「時間に追われるか」「聞き手が何人いるか」の 3 点です。自分の名前や社名、決まった挨拶の文句は別の語に置き換えられません。電話は相手の表情が見えず、沈黙がそのまま「つながっていない」と受け取られます。会議や朝礼は聞き手が多く、待ってもらう時間の重さが増します。場面ごとに並べると、誰に何を伝えておけば足りるかが見えてきます。

場面詰まりやすくなる理由伝えておく相手伝える中身の例
電話の一次受け社名と名前を最初に言う決まりがあり、言い換えがきかない。沈黙が不通と取られる上司と、電話を分け合う同僚受ける本数の調整か、かけ直しや取り次ぎの担当に回る形
朝礼や当番の挨拶決まった文句を、全員の前で、順番どおりに言う朝礼を回す人順番を後ろにする、原稿を見ながら話す、短い形で済ませる
会議の発言や報告聞き手が多く、時間の枠がある。資料の数字は言い換えにくい会議の主催者か直属の上司事前にチャットや資料で要点を出し、口頭は補足にする
接客や窓口相手は事情を知らない初対面の人で、待つ理由が伝わらない上司と、交代できる同僚詰まった時に代われる人を決めておく、定型の案内は紙や画面で見せる
1 対 1 の打ち合わせや雑談言い換えができ、時間の余裕もある必要に応じて相手本人伝えなくても回ることがある。気になるなら一言だけ

表の上 4 行のように、言い換えがきかず聞き手の多い場面を毎日のように担当しているなら、少なくとも上司には伝えておく意味があります。逆に、話す場面が 1 対 1 の打ち合わせくらいで、詰まっても仕事が止まらないなら、誰にも言わずに働く選択も十分に成り立ちます。

3 つの形には、それぞれ向き不向きがあります。

形向いている状況起こりうる困りごと
チーム全体に打ち明ける朝礼や会議の発言が日常的にあり、詰まりを隠すのに疲れ切っている話す機会を善意で外され、評価の場が減る
上司と一部の同僚にだけ伝える困る場面が電話や接客など特定の業務に限られる伝えていない人の前で詰まった時に、説明の役が自分に戻る
伝えずに働く話す場面が少なく、詰まっても業務が回る言い換えや回避を続けるうちに、話す場面を自分から避けるようになる

3 つ目の「話す場面を自分から避ける」は、気づかないうちに進みます。電話が鳴っても取らない、会議では発言を控える、という形が積み重なると、本来の力より低く見られる原因になることがあります。伝えないと決めた人ほど、避けている場面がどれだけあるかを時々数えておくと、方針を変える時期の目安になります。

家では話せるのに、職場でだけ吃音が出るのはなぜか

家族や友人とは普通に話せるのに、職場に入ると急に言葉が詰まる。そのため「本当に吃音なのか、ただの緊張ではないか」と自分を疑い、誰にも言えずにいる人がいます。けれど、吃音は相手や場面によって出方が変わることがあり、職場だけで出るからといって作り話や甘えになるわけではありません。

職場の話し方には、家庭や友人との会話と違う条件がいくつも重なっています。

  • 言う語が決まっている。社名、部署名、自分の名前、「お世話になっております」のような定型句は、詰まりそうでも別の語に逃がせない
  • 時間の圧力がある。電話の第一声、会議の持ち時間、窓口の待ち列など、沈黙が長く感じられる仕組みになっている
  • 評価されている感覚がある。話し方まで仕事の出来として見られていると感じると、詰まった時の焦りが大きくなる
  • 隠している負担がある。詰まりそうな語を避けて言い換え続けると、話す内容より語の選び直しに頭が使われる

こうして並べると、詰まりやすくなる条件のいくつかは、話し手の側ではなく場面の作りにあることが分かります。だからこそ、職場への頼みごとは「吃音を何とかしてほしい」ではなく「この場面のこの条件を少し変えてほしい」という形にすると、相手も動きやすくなることがあります。社名で詰まるなら第一声を「はい」で始めてよいことにする、会議の持ち時間が負担なら要点を先に文字で出す、という具合です。

職場でだけ出ることを、自分で責める材料にしなくて構いません。恥ずかしさが強い時ほど、その気持ちは「隠したい」という方向に働き、隠すほど詰まる場面が怖くなる循環に入りやすくなります。

上司に配慮を頼むには、どう伝えればよいのか

上司への伝え方で大事なのは、吃音の説明を長くするより、困る場面と頼みたい形を 1 つずつ具体的に出すことです。「吃音があります」だけで終わると、上司は何をすればよいか分からず、とりあえず話す仕事を全部外す、という極端な配慮に流れることがあります。こちらから形を示せば、上司も判断しやすくなることがあります。

法律の上では、障害者雇用促進法 36 条の 3 が、事業主に対し、障害のある労働者の障害の特性に配慮して、職務を円滑に進めるために必要な措置を講じるよう求めています。ただし事業主に過重な負担となる場合は除かれます。自分の吃音がこの法律の対象に当たるかどうかは、働く上での制限の程度などで変わり、ここで一律には言えません。制度の名前を最初に出すより、次のような具体的な頼みごととして話すほうが、話し合いを始めやすい場面もあります。

電話の担当について頼む文例

「ご相談があります。私は吃音があって、電話の第一声の社名で言葉が詰まることがあります。お客様をお待たせしてしまうのが心苦しいので、一次受けの本数を減らして、そのぶんメールの返信や資料作りを多めに受け持たせていただけないでしょうか。かけ直しや社内の取り次ぎなら問題なくできます。」

ポイントは、できないことと、代わりにできることを同じ文の中に置くことです。「電話ができません」で切ると仕事を減らしたいだけに聞こえかねませんが、引き受けられる仕事を添えれば、業務の割り振りの相談として話せます。

発表や報告の形について頼む文例

「定例会の報告の件でお願いがあります。吃音があり、人前で数字を読み上げる時に詰まりやすいです。報告の要点は前日までに資料で共有し、当日は補足と質問への回答を中心にさせていただけますか。話すこと自体を外してほしいわけではありません。」

最後の一文は、配慮のつもりで発表の機会を丸ごと外されるのを防ぐためのものです。話す場面を減らしたいのか、話し方の形を変えたいのかを、自分の言葉ではっきりさせておきます。人前で話す場面への備えそのものは、発表の準備の仕方として別に整えておくと、当日の負担が軽くなることもあります。

同僚に伝える短い一言

同僚には、上司に話すほど詳しく伝える必要はありません。席の近い人や電話を分け合う人に、次のような一言を伝えておくだけで、詰まった時の空気が変わることがあります。

  • 「私、吃音があって言葉が詰まることがあるんです。詰まっても待ってもらえれば大丈夫です」
  • 「話の途中で止まっても、言い終わるまで聞いてもらえると助かります。先回りして言ってもらわなくて平気です」
  • 「電話で詰まったら、目で合図するので代わってもらえますか」

どれも、相手に何をしてほしいかを 1 つだけ含めています。吃音の原因や自分の歴史を説明し始めると、相手は重い打ち明け話として受け止め、かえって接し方に迷います。

同僚が苛立った様子を見せた時の受け止め方と、周りの人ができること

詰まっている最中に、相手がため息をついた、目をそらした、「で、何?」と急かした。そういう反応は、何日も頭に残ります。受け止める時に役立つのは、相手の苛立ちが何に向いているのかを分けて考えることです。

相手が忙しくて時間に追われているだけなら、苛立ちは吃音ではなく状況に向いています。吃音を知らないために「ふざけている」「準備不足だ」と誤解しているなら、一言伝えるだけで変わる余地があります。一方で、話し方を真似する、会議で笑いものにする、詰まるたびに嫌味を言う、といった行為が続くなら、それは受け流す問題ではなく、職場の人間関係の問題として扱ってよいものです。上司や人事に、いつ、誰に、何を言われたかを具体的に伝えて相談してください。

社内で話しにくい時は、こころの耳 (働く人の電話・SNS 相談) に電話や SNS で相談できます。受付時間ありの窓口なので、夜や休みの日は 24 時間つながるよりそいホットラインを使えます。からかいや嫌がらせが人権の侵害に当たるか迷う時は、法務省のみんなの人権 110 番にも相談できます。今つながる先はつながる窓口で確かめられます。

同僚の側が職場でできること

吃音のある同僚と働く人にとって、心がけの基本は「待つ」「先取りしない」「目を自然に合わせたままにする」の 3 つです。ただ、職場ではそれぞれに迷う場面があります。

場面してしまいがちなこと代わりにできること
会議で発言が止まった沈黙を埋めようと、司会が次の人に振る数秒待つ。時間が押しているなら「続きはチャットでも大丈夫です」と選択肢を出す
電話の取り次ぎで詰まっている横から受話器を取る本人の合図を待つ。事前に代わる合図を決めておく
雑談で言葉が出てこない言いたそうな語を先に言ってあげる言い終わるまで同じ表情で聞く。当たっていても先回りしない
詰まった後「落ち着いて」「ゆっくりでいいよ」と声をかける何もなかったように話を続ける
発表の割り振り気を遣って本人を外す本人に、どの形なら引き受けやすいかを聞く

「落ち着いて」は善意の言葉ですが、本人には「詰まりが目立っている」という合図として届くことがあります。迷った時は、本人に直接「どうしてほしいか」を聞くのがいちばん確かです。同じ吃音でも、待ってほしい人もいれば、詰まった時は代わってほしい人もいます。

打ち明けるか決める前に、出勤日に試せる小さな一歩

  • 出勤した日に、詰まった場面と語を短く控える。電話の第一声、朝礼の挨拶、会議の数字など、場面の偏りが見えてくる
  • いちばん困っている場面を 1 つだけ選び、上司への頼みごとを 1 文にしてみる。「電話の一次受けを減らして、代わりに〇〇を引き受けたい」の形で
  • 話しやすい同僚 1 人に、詰まっても待ってほしいとだけ伝えてみる

1 人に伝えて、その人の反応が穏やかだったなら、範囲を少しずつ広げればよいですし、話さないままで回るなら、それも一つの答えです。どの形を選んでも、後から変えられます。

話す場面の多い仕事を続けることだけが道でもありません。資料作りや調べもの、文章でのやり取りのように、言葉を声に出さなくても力を出せる仕事は職場の中にもあります。静かな働き方で強みを出す考え方を取り入れると、話す場面の少なさを弱みではなく得意の置き場所として捉え直せることもあります。

この記事を共有

関連記事