コミュニケーション

褒められると否定してしまう - 「そんなことないです」が反射で出る理由

この記事は約 2 分で読めます 執筆 / 運営: ここもり

口が勝手に否定する

資料を褒められた。「よくまとまってますね」。返事は考える前に出ている。「いえ、全然です」。

その後で、少し後悔します。せっかく言ってくれたのに、雑に扱ってしまった。相手も少し戸惑った顔をしていた。次はちゃんと受け取ろうと思うのに、次の機会でも同じ言葉が出ます。

この反射には、性格の問題として片付けにくい構造があります。同じ「そんなことないです」が、まったく違う 2 つの場所から出てくるのです。

謙遜と自己否定は見分けにくい

日本語の会話では、褒め言葉を受けた側が一度否定するのが標準的な作法として機能してきました。褒められてそのまま肯定すると、傲慢だと受け取られる可能性がある。だから否定を挟んで、場のバランスを取ります。

この場合の否定は、社交上の手続きです。本人は自分の仕事に自信を持っていても、形式として否定します。

一方で、自己肯定感が低い場合の否定は、内容の主張です。本当にそう思っていないから否定する。相手の評価が間違っていると考えている、あるいは自分に向けられた肯定を受け取れる自己概念を持っていない。

厄介なのは、この 2 つが同じ言葉で表に出ることです。外から見て区別できないだけでなく、本人にも区別しにくい。作法として否定しているつもりで、実は受け取れないでいる場合があります。

見分ける手がかりは、否定した後に何が残るかです。作法としての否定なら、後に何も残りません。自己評価に基づく否定なら、褒められたこと自体が居心地の悪い出来事として残ります。相手の言葉を思い返して「本気ではないだろう」と考える時間が生じるなら、後者の側です。この居心地の悪さは、インポスター症候群として知られる感覚と地続きです。

否定された相手の側で起きること

受け取る側の視点を置いてみると、対処の必要性がはっきりします。

褒めるという行為には、相手を評価するという判断が含まれています。「よくまとまっている」と言った人は、その判断に自分の目を使っています。それを強く否定されると、判断が誤りだと言われたことになります。

もちろん、そこまで受け取る人は少ないでしょう。しかし繰り返されると、褒める行為が徒労として学習されます。褒めても否定される相手には、次から言わなくなります。

この結果は、否定した側にとって不利です。評価されていないのではなく、評価が届かない状態を自分で作っていることになります。褒められる機会が減れば、自己評価を修正する材料も減ります。

受け取る言葉をひとつ用意する

反射を止めるのは難しいので、反射で出る言葉のほうを入れ替えます。

使いやすいのは、感謝に変換する形です。「ありがとうございます」。内容への同意を含まないため、傲慢に聞こえません。しかも否定でもない。作法としての謙遜が必要な場面でも、これで足ります。

もう一段足せるなら、具体を返す形です。「ありがとうございます。構成に時間をかけたので嬉しいです」。何を評価されたのかを受け取ったことが伝わり、会話も続きます。

相手の言葉を返す形も使えます。「そう見えますか。よかったです」。判断を相手に残したまま、受け取ったことを示せます。

要点は、事前に決めておくことです。その場で考えると反射が先に出ます。1 つだけ決めて、繰り返し使う。使い慣れると、それが新しい反射になります。

自分の評価と他人の評価のずれ

言葉を変えるだけで済まない場合もあります。褒められた内容を、心の中でどうしても受け取れないとき。

この状態を無理に「受け取れるようになろう」とすると、うまくいきません。自己評価は言葉の練習で変わるものではないからです。

使える視点は、他人の評価を情報として扱うことです。相手が見た事実として「よくまとまっていると見えた」がある。自分の実感として「不十分だと思っている」がある。この 2 つは矛盾しません。同じものを違う立場から見た結果です。

どちらが正しいかを決める必要もありません。他人の評価は、自分が見えていない部分についての情報であり、それを消さずに保存しておく。そのうちに、自分の実感と外の評価が近づく場合があります。

この扱い方は、評価されているのに自分は不相応だと感じる状態とも重なります。評価を否定する反射は、その感覚を維持する装置として働くため、言葉を変えることが感覚の側にも影響します。

受け取れるようになるまでの順序

変えていく順序は、外側から内側へ向かうほうが現実的です。

第 1 段は、言葉だけを変えることです。心の中で否定していても構いません。口から出る言葉を感謝に置き換える。相手に届く部分だけが変わります。

第 2 段は、記録することです。褒められた内容を書き留めておく。忘れないためではなく、後で見返して「これだけ言われている」という量を確認するためです。個別の出来事は否定できますが、蓄積された量は否定しにくい。

第 3 段は、自分から褒めることです。他人を褒める側に立つと、褒める行為に含まれる判断の重みが分かります。自分が本気で言ったことを否定された経験があると、否定する側の立場が変わります。

反射的に否定してしまうことを、その場で直す必要はありません。言葉ひとつを入れ替えるだけで、相手に渡るものは変わります。渡るものが変われば、返ってくるものも変わっていきます。

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