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育休明けがつらい - 復帰後の涙と罪悪感、辞める前に立ち止まって考えたいこと

この記事は約 5 分で読めます 執筆 / 運営: ここもり

そのつらさは、甘えでも能力不足でもない

朝、泣いてしがみつく子どもを保育園に残して駆け出す。会社に着けば席を外していた間の変化に追いつけず、お迎えの時間が来れば仕事を途中で切り上げて頭を下げる。家に帰れば夕食と風呂と寝かしつけが待っていて、夜中には何度も起こされる。気づけば通勤電車で涙が出ている。育休明けの日々がこんなにつらいとは思わなかった、という声は、決して珍しいものではない。

最初に伝えたいのは、このつらさが甘えでも能力不足でもないということだ。育休からの復帰は、「新しい環境への再適応」と「乳幼児を抱えた生活の運転」という大仕事を、寝不足のまま同時にこなす期間であり、構造的に誰がやってもつらい。そして適応には月単位の時間がかかるから、復帰直後の苦しさを根拠に自分の限界を判定するのは早すぎる。この記事では、つらさの正体を分解したうえで、二重の罪悪感との付き合い方、毎日を軽くする工夫、そして「辞めるか続けるか」を疲れ切った頭で決めないための判断軸を順に書いていく。なお、時短勤務や給付のような仕組みの細部は勤務先や自治体によって異なるうえに変わっていくものなので、この記事では踏み込まない。制度の確認は人事や公式の窓口で行うのが確実だ。

つらさの正体を分解する

「とにかくつらい」という塊のままでは対処のしようがない。分解すると、育休明けのつらさは主に六つの要素が重なったものだと分かる。

第一に、体力の借金。夜間の授乳や夜泣きで細切れ睡眠のまま、通勤と労働が上乗せされる。第二に、時間の構造変化。自分の裁量で使える時間がほぼ消え、締め切りは「お迎えの時刻」という動かせないものに変わる。第三に、仕事の変化。休んでいた間にメンバーも案件も道具も入れ替わっていて、浦島太郎のような疎外感を覚える。第四に、役割の綱引き。職場では子どもの事情で抜けることを申し訳なく思い、家では仕事で心身が残っていないことを申し訳なく思う。どちらの場所でも「足りない自分」を感じる二重取りの構造だ。第五に、子どもの体調の洗礼。集団生活を始めたばかりの子どもはよく熱を出し、呼び出しの電話への緊張が勤務時間中ずっと背中に張り付く。第六に、自分という感覚の揺らぎ。仕事で評価されてきた人ほど、思うように働けない現実に自尊心を削られる。責任ある仕事から外されて補助的な業務ばかりが続く状態は「マミートラック」と呼ばれることがあり、望まない配置の変化そのものが喪失体験になる。

自分のつらさがどの要素から来ているかを書き出してみてほしい。全部が重いとは限らず、効く対処は要素ごとに違う。塊をほどくことが、最初の回復の一歩になる。

「休む前の自分」と比べない - 復帰は転職に近い

復帰後によく起きるのが、育休前の自分との比較だ。あの頃は残業もできた、即答できた、頼られていた。その基準で今の自分を測れば、毎日が敗北になってしまう。しかし冷静に考えれば、復帰は同じ会社に戻ることというより、新しい制約と新しい環境のもとで働き始める転職に近い。転職なら誰でも、慣れるまで数か月は力を出し切れないことを織り込むはずだ。復帰にも同じ猶予を自分に与えていい。

比べるなら、他人や過去の自分ではなく、先週の自分と比べる。保育園の朝の流れが少し滑らかになった、引き継ぎ資料の全体像がつかめた、それで十分に前進だ。また、勤務時間が短くなったことを「戦力外」と読み替えないでほしい。総量では以前に及ばなくても、限られた時間に密度で応える働き方は成立するし、締め切りが動かせない人ほど段取りが研ぎ澄まされていくのは、多くの職場で実際に観察されることだ。

二重の罪悪感との付き合い方

育休明けの心を最も消耗させるのは、疲労よりも罪悪感かもしれない。子どもに対しては「こんなに小さいのに預けて」、職場に対しては「迷惑をかけてばかりで」。二方向の申し訳なさが同時に湧く。

子どもへの罪悪感については、まず「預けること自体が子どもを損なう」という思い込みを疑ってほしい。預けられて育つ子は健やかに育たない、と言えるような確かな根拠はなく、大切なのは一緒にいる時間の長さそのものより、その時間の質と、養育者が追い詰められていないことだ。あなたが心身を保てていることは、子どもの環境の一部である。ワーキングマザーの罪悪感は多くの人が通る道であり、その手放し方は別の記事で詳しく扱っている。

職場への罪悪感については、謝罪を感謝に言い換えることから始めるといい。「すみません」を重ねるほど自分の中の負い目は膨らむ。「昨日は代わってくださってありがとうございました」と感謝で返し、引き継ぎメモを整え、自分に余裕がある日は誰かの穴を埋める側に回る。職場の助け合いは一日単位の貸し借りではなく、長い期間でならす「お互い様」の口座だ。今は借りる時期で、返す時期は後から来る。それでいい。

罪悪感はゼロにはならない。それは愛情と責任感の裏返しだからだ。消そうとするのではなく、「また出たな」と名前を付けて眺めるくらいの距離感で付き合っていく。

毎日を軽くする - 基準を下げ、頼る先を増やす

復帰後の生活は、育休前の家事水準のままでは物理的に回らない。床に物が落ちていなければ合格、食事は栄養がとれていれば市販の総菜でも冷凍でも合格、と暮らしの合格ラインを意識的に引き下げる。手を抜くのではなく、続けられる水準に設計し直すということだ。

次に、パートナーとの再交渉。育休中の分担のまま復帰すると、増えた負荷が育休を取っていた側に集中して破綻しやすい。保育園からの呼び出しにどちらが出るか、朝と夜の担当、名前のつかない細かな家事を、「手伝う」ではなく「担当する」の形で仕切り直す。話し合いは、疲れがピークの平日の夜ではなく、少しでも余裕のある時間に持つのがこつだ。

そして、頼る先は多いほどいい。親族、病児保育、地域の預かり援助、送迎の助け合い。使えるものは調べて登録だけでも済ませておくと、呼び出しの電話への緊張が一段下がる。加えて見落とされがちなのが、大人と悩みを話せる場を持つことだ。仕事と育児だけで一日が埋まると、孤独な育児の状態に職場の孤立が重なりやすい。同じ時期に復帰した同僚や、同じ月齢の子を持つ知人と、弱音を言い合える回路を一本つないでおいてほしい。

辞めたいと思ったら - 決めるのは今じゃなくていい

復帰後の消耗の中で「もう辞めよう」と思い詰める人は多い。ここで覚えておいてほしいのは、疲労のピークで人生の決断をしない、という原則だ。「今日辞めたい」は多くの場合「今日つらい」の翻訳であり、睡眠と休息で判断は変わり得る。辞める自由はいつでも残っているのだから、決断を急ぐ理由はない。

そのうえで、いま抱えているつらさが「時間が解決に向かう適応のつらさ」なのか「環境を変えるべき構造的な問題」なのかを見分けたい。

観点適応のつらさ (時間が味方になる)構造的な問題 (環境の変更を検討)
つらさの推移波はあるが、楽な日が少しずつ増えている数か月たっても悪化する一方
原因の所在慣れや段取りの工夫で削れる負荷が残っている職場の姿勢や仕事の性質にあり、自分の工夫では動かない
周囲の反応事情を話せば調整の余地がある妊娠・出産・育児を理由にした嫌がらせや不利益な扱いがある
体と心疲れてはいるが、眠れて食べられている不眠や食欲不振、止まらない涙が続いている

右の列に当てはまるものが多いなら、あなたの適応力の問題ではない。育児を理由にした嫌がらせや不利益な扱いは我慢の対象ではなく対処の対象であり、マタハラから自分を守るための法的な権利と手順は別の記事にまとめている。異動の相談、働き方の変更、転職を含めて、環境の側を動かす選択が合理的だ。

左の列が多いなら、期限付きの保留を勧めたい。「半年後の自分で判断する」と日付を決めて手帳に書き、それまでは判断を棚に上げて目の前の負荷を削ることに集中する。半年後、楽になっていれば続ければいいし、同じなら辞める選択に胸を張って進めばいい。辞めることは敗北ではなく、家族の暮らしの設計変更である。ただしその前に、有給や休職で一度立ち止まる道はないか、削れる負荷が残っていないかだけは確かめてほしい。「もう頑張れない」と感じるほど消耗しているなら、燃え尽き症候群からの回復を先に扱うべき段階かもしれない。

心が限界のサイン - 受診をためらわない

産後の心の不調は、出産直後だけに起きるものではない。復帰期の強い負荷をきっかけに現れることもある。次のような状態が二週間以上続くなら、頑張りで乗り切る段階を越えているサインだ。

  • 眠れる状況でも眠れない、食欲がわかない
  • 涙が止まらない日が続く、何をしても楽しいと感じられない
  • 「自分は母親としても社員としても失格だ」という自責が頭から離れない
  • 消えてしまいたい、いなくなれば楽になる、という考えが浮かぶ

相談先は、心療内科や精神科のほか、出産した産婦人科、自治体の産後相談の窓口、勤務先の産業医など複数ある。「病院に行くほどではない」と感じるうちに行くのが、回復への最短距離だ。消えてしまいたいという考えが浮かぶときは、一人で抱えず、つながる窓口で今すぐ話せる相談先を探してほしい。

次の一歩 - 今夜からできる三つのこと

第一に、今夜、暮らしの合格ラインを一つ下げる。やめても誰も困らない家事を一つ、意識的に手放す。第二に、今週、誰か一人に「つらい」と言葉で伝える。パートナーでも、同僚でも、昔の友人でもいい。声に出した瞬間から、つらさは一人分ではなくなる。第三に、「辞める・続ける」の判断に日付を付けて、いったん棚に上げる。

育休明けのつらさは、あなたの人生が間違った方向に進んでいる証拠ではない。二つの大仕事を同時に始めた人に訪れる、避けがたい移行期の揺れだ。そして移行期はいつか終わる。あなたが倒れないでいることが、子どもにとっても、職場にとっても、何より大切な土台になる。

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