マタハラから自分を守る - 妊娠・出産・育児に関する法的権利と対処法
マタハラとは何か - 定義と実態
マタニティハラスメント (マタハラ) とは、妊娠・出産・育児に関連して職場で受ける不利益な取り扱いや嫌がらせの総称です。厚生労働省の 2023 年調査によると、妊娠・出産を経験した女性労働者の約 26% がマタハラを受けた経験があると回答しています。
マタハラは大きく 2 つに分類されます。「制度等の利用への嫌がらせ型」は、産休・育休の取得を妨害したり、取得を理由に不利益な扱いをするものです。「状態への嫌がらせ型」は、妊娠していること自体を理由に嫌がらせや不利益な扱いをするものです。具体的には、「妊娠したなら辞めたら」という退職勧奨、産休取得を申し出たら降格された、妊娠を報告したら重要なプロジェクトから外された、「つわりで休むなんて甘い」という精神的な嫌がらせなどが該当します。
法律で保障されている権利を知る
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法第 9 条は、妊娠・出産を理由とする不利益取り扱いを明確に禁止しています。具体的には、解雇、降格、減給、不利益な配置転換、契約更新の拒否、退職の強要などが禁止されています。妊娠中および出産後 1 年以内の解雇は、事業主が「妊娠・出産が理由ではない」ことを証明しない限り無効とされます。
育児介護休業法
育児介護休業法は、育児休業の取得を理由とする不利益取り扱いを禁止しています。育児休業は原則として子が 1 歳になるまで取得でき、保育所に入れない場合は最長 2 歳まで延長可能です。2022 年の法改正で「産後パパ育休」(出生時育児休業) が創設され、男性も出生後 8 週間以内に最大 4 週間の休業を取得できるようになりました。
産前産後休業 (労働基準法)
労働基準法第 65 条により、産前 6 週間 (多胎妊娠の場合は 14 週間) と産後 8 週間の休業が保障されています。産前休業は本人の請求が必要ですが、産後 8 週間は原則として就業が禁止されています (産後 6 週間経過後に本人が希望し、医師が認めた場合は就業可能)。この期間中の解雇は労働基準法第 19 条で禁止されています。
マタハラの具体的な対処法
証拠を確保する
マタハラに対処する上で最も重要なのは証拠の確保です。「言った・言わない」の水掛け論にならないよう、以下の方法で記録を残しましょう。発言の日時、場所、発言者、発言内容、同席者をメモに記録する。メールやチャットでの嫌がらせは、スクリーンショットを保存する。可能であれば、会話を録音する (自分が当事者の会話の録音は、多くの場合合法です)。人事評価の変更や配置転換の通知は、書面で受け取るよう依頼する。
社内の相談窓口を利用する
2017 年の法改正により、事業主にはマタハラ防止措置を講じる義務があります。社内に相談窓口が設置されているはずですので、まずはそこに相談しましょう。相談した事実と回答内容も記録に残してください。
外部の相談窓口を活用する
社内で解決しない場合や、相談窓口自体が機能していない場合は、外部の機関に相談します。都道府県労働局の雇用環境・均等部 (室) は、無料で相談でき、事業主への助言・指導・勧告を行う権限を持っています。労働基準監督署は、労働基準法違反 (産前産後休業の拒否など) に対応します。弁護士への相談は、法テラス (0570-078374) で無料の法律相談を受けられます。職場でのハラスメント全般への対処法を知っておくことで、マタハラに限らず自分を守る力が身につきます。
妊娠中の働き方に関する権利
妊娠中の女性労働者には、以下の権利が法律で保障されています。妊婦健診のための時間確保 (男女雇用機会均等法第 12 条)。医師の指導に基づく勤務時間の短縮、作業の制限、休業 (同法第 13 条)。時間外労働、休日労働、深夜業の制限 (労働基準法第 66 条)。軽易な業務への転換請求 (同法第 65 条第 3 項)。
これらの権利を行使することは「わがまま」ではなく、法律で認められた正当な権利です。権利の行使を理由とする不利益取り扱いは違法です。
復職後に気をつけること
育休からの復職時にもマタハラは起こり得ます。復職後に以前より低い職位や給与で配置されるケースは、育児介護休業法に違反する可能性があります。復職前に、復職後の配置、職位、給与について書面で確認しておきましょう。復職面談では口頭の約束だけでなく、メールや書面で条件を残すことが重要です。
また、短時間勤務制度 (3 歳未満の子を養育する労働者が対象) や所定外労働の制限 (3 歳未満)、時間外労働の制限 (小学校就学前) などの制度も活用できます。これらの制度の利用を理由とする不利益取り扱いも禁止されています。
復職後に「マミートラック」(昇進や重要な業務から外される状態) に陥るケースも少なくありません。短時間勤務を選択したからといって、能力に見合わない単純作業ばかりを割り当てられるのは不当です。自分のキャリアプランを上司と共有し、短時間勤務中でもスキルを活かせる業務を担当できるよう交渉しましょう。仕事と家庭の両立に悩んだときは、制度を知ることが最大の武器になります。
パートナーと共に備える
マタハラへの対処は、本人だけでなくパートナーの理解と協力が不可欠です。妊娠が分かった時点で、以下の点をパートナーと共有しましょう。産前産後休業と育児休業の取得スケジュール。家計への影響と出産手当金・育児休業給付金の試算。復職後の家事・育児の分担計画。万が一マタハラを受けた場合の対応方針。
出産手当金は標準報酬日額の 3 分の 2 が支給され、育児休業給付金は休業開始から 180 日間は賃金の 67%、それ以降は 50% が支給されます。これらの制度を事前に把握しておくことで、経済的な不安を軽減できます。
まとめ - 知識は最大の防御
マタハラから自分を守る最大の武器は「知識」です。自分にどのような権利があるのかを知り、証拠を確保し、適切な相談窓口に繋がる。この 3 つのステップを押さえておけば、不当な扱いに対して毅然と対処できます。妊娠・出産は祝福されるべきライフイベントであり、それを理由に不利益を被ることは法律で明確に禁止されています。