きょうだいリスク
無職や非正規雇用、非婚などで経済的な自立が難しい兄弟姉妹の生活を、親亡き後に自分が支えることになるかもしれないという将来不安を指す言葉。2016 年刊行の同名書籍で広まった。扶養義務の考え方と、共倒れを防ぐ相談先を解説する。
きょうだいリスクとは
きょうだいリスクとは、無職や非正規雇用、ひきこもり、非婚などの事情で経済的な自立が難しい兄弟姉妹の生活を、親が亡くなった後に自分が背負うことになるかもしれない、という将来への不安を指す言葉だ。2016 年 2 月に刊行された『きょうだいリスク 無職の弟、非婚の姉の将来は誰がみる?』(平山亮・古川雅子、朝日新書) がこの問題を提起し、言葉として広まった。親が存命のうちは、実家という住まいと親の年金や蓄えが本人の生活を支えている。その支えが失われたとき、生活の問題は残された兄弟姉妹へと引き継がれる。同書は、雇用の不安定化と未婚化を背景に、これを個人の甘えではなく社会構造の問題として描いた。
どんな形で現れるか
きょうだいリスクは多くの場合、劇的な事件ではなく、日常の小さな引っかかりとして現れる。帰省するたびに、実家で暮らすきょうだいの将来が頭をよぎる。親から「私たちがいなくなったら、あの子をよろしくね」と言われて返事に詰まる。自分の配偶者や子どもに、いつか負担をかけるのではないかと負い目を感じる。親の介護の話し合いで、実家にいるきょうだいとの役割分担がこじれる。誰にも相談できないまま、結婚や住宅購入といった自分の人生の決断に影が差す。この「まだ起きていないのに逃れられない」という感覚こそが、きょうだいリスクのつらさの核心である。
よくある誤解と法律の考え方
まず、混同されやすい言葉との区別を押さえたい。病気や障害のある兄弟姉妹とともに育つ子どもを指す「きょうだい児」は、支援の文脈が異なる別の言葉である。また、きょうだいと比べられて育った心の傷、いわゆるきょうだいコンプレックスも、ここで扱う経済的な将来不安とは別のテーマだ。
法律の面では、民法は直系血族と兄弟姉妹が互いに扶養をする義務を負うと定めている。ただし、兄弟姉妹の間の扶養義務は、一般に、自分の生活を犠牲にしてまで支えることを求めるものではなく、自分の生活を維持したうえで余力のある範囲での援助と考えられている。実際に何をどこまで求められるかは、収入や家族構成などの個別の事情によるため、具体的な場面では法テラスや弁護士などの専門家に確認してほしい。「全部自分が背負うしかない」という思い込みと、「法律上は無関係だ」という思い込みは、どちらも正確ではない。
親が元気なうちにできること
きょうだいリスクへの備えは、親が動けるうちに始めるほど選択肢が多い。核心は、きょうだいの生活の問題を親の代で整理してもらうことだ。親の資産と生活費の見通し、本人の状況を親ときょうだい全員で共有し、親亡き後の住まいと生計をどうするかを、親自身の課題として考えてもらう。本人の自立を支える公的な窓口もある。自治体が設けている生活困窮者自立支援の相談窓口は、就労や家計の立て直しを本人と一緒に考える機関で、家族からの相談も受け付けている。ひきこもりの状態が長い場合はひきこもり地域支援センター、高齢の親の介護と重なる局面では地域包括支援センター、地域の福祉全般については社会福祉協議会が入口になる。
支えると決めるなら、線を引く
それでも自分が支えると決める場合は、金額と期間の上限をあらかじめ決め、配偶者と共有しておくことが大切だ。際限のない援助は自分の家計を崩し、共倒れを招く。共倒れは本人にとっても最悪の結末であり、線を引くことは冷たさではなく、支援を続けるための条件である。すでに一人で抱えて疲弊しているなら、まず上に挙げた窓口のどれかに、匿名でもよいので状況を話してみてほしい。問題の全体を一度言葉にするだけでも、漠然とした不安は「対処できる課題の集まり」へと変わり始める。
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