フキハラ (不機嫌ハラスメント)
不機嫌ハラスメントの略で、不機嫌な態度をまき散らして周囲を萎縮させ、気を使わせるふるまいを指す俗称。法律上のハラスメントとの違い、振り回されないための対処、自分が加害側に回らない工夫を解説する。
フキハラとは
フキハラとは「不機嫌ハラスメント」の略で、不機嫌な態度を隠さずまき散らすことで周囲を萎縮させ、気を使わせ、結果として相手を思い通りに動かしてしまうふるまいを指す俗称だ。怒鳴る、責めるといった直接的な攻撃ではなく、ため息、無言、ドアを強く閉める、返事をしない、あからさまに不機嫌な表情のまま作業するといった間接的な形を取るのが特徴である。2022 年 12 月には、脳波計測を研究する満倉靖恵が『フキハラの正体』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) で不機嫌が周囲に与える影響を論じており、この時期に書籍やメディアで取り上げられて広く知られるようになった言葉だ。
身近な場面でどう現れるか
家庭では、一人の機嫌がその日の家の空気を決めるという形で現れる。帰宅した配偶者の足音や物音で「今日は機嫌が悪い」と察知し、家族全員が言葉を選び始める。子どもは親の顔色を読む習慣を身につけ、言いたいことを飲み込むようになる。職場では、上司の機嫌次第で報告や相談のタイミングを計る、質問できずに業務が滞る、機嫌の観測がほとんど仕事の一部になる、といった形を取る。フキハラの厄介さは三つある。第一に、本人に自覚がないことが多い。第二に、「何も言っていない」「何もしていない」ため、受け手の側から指摘しにくい。第三に、受け手が「自分が何かしたのだろうか」と原因を自分に求めてしまいやすい。
法律上のハラスメントとの違い
フキハラは俗称であり、それ自体に法律上の定義があるわけではない。たとえば職場のパワーハラスメントは、労働施策総合推進法にもとづき「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」という 3 つの要素で整理され、事業主には防止措置が義務づけられている (2022 年 4 月以降は中小企業も対象)。不機嫌な態度も、その態様や継続性によっては精神的な攻撃や人間関係からの切り離しとしてこの枠組みで問題になり得るが、該当するかどうかは個別の事情によって判断される。「不機嫌だから直ちにハラスメントに当たる」と単純に言えるわけではない。逆に、法律の定義に収まらないなら問題がない、ということでもない。身近な人の不機嫌に日常的に振り回される状態は、それだけで生活の質を大きく削る。
振り回されないための対処
出発点は、機嫌の管理はその人自身の課題だと線を引くことだ。相手の不機嫌の原因を探して先回りする行動は、短期的には場を収めても、「不機嫌でいれば周りが動いてくれる」という学習を強化してしまう。機嫌を取るための行動を意識的に減らし、不機嫌には反応せず、機嫌のよいときに普通に接する。伝えるときは人格ではなく事実と影響に絞り、「ため息をつかれると相談しづらい」のように具体的な行動を言葉にする。職場であれば、日時と状況の記録を残し、一人で抱えずに相談窓口や信頼できる上司につなぐ。なお、不機嫌が威嚇に近い場合、つまり物に当たる、大きな音で脅かす、恐怖で行動を縛られていると感じる場合は、機嫌の問題を越えた支配の問題だ。つながる窓口で相談先を確認してほしい。
自分が不機嫌をまき散らさないために
感情は表情や声のトーンを通じて周囲に伝わっていく。不機嫌を「隠しているつもり」でも、身近な人ほど敏感に受け取っている。加害側に回らないための実践は単純で、機嫌が悪いことを言葉で開示することだ。「今は疲れているだけで、怒っているわけではない」と一言添えるだけで、周囲は原因探しから解放される。空腹、疲労、睡眠不足といった不機嫌の身体的な要因を自分で把握し、先に手当てしておくことも効果が大きい。機嫌よくあり続ける必要はない。不機嫌の処理を周囲に外注しないことが、フキハラとの分かれ目である。
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