音楽・芸術

なぜ「あの曲」が頭から離れないのか - イヤーワームの科学

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98% の人が経験する「脳内リピート」

朝の通勤電車で聞いた CM ソングが、夕方になってもまだ頭の中で流れている。昨日カラオケで歌った曲が、翌日の会議中にも脳内で再生される。この現象を「イヤーワーム (earworm)」と呼びます。ドイツ語の「Ohrwurm (耳の虫)」に由来する言葉で、まるで虫が耳に入り込んで音楽を鳴らし続けているような感覚を表しています。

研究によれば、人口の約 98% がイヤーワームを経験します。頻度は人によって異なりますが、平均して週に数回、1 回あたり数分から数時間続きます。ほとんどの場合は不快ではなく、むしろ楽しいと感じる人が多いのですが、中には何日も同じフレーズが離れず苦痛に感じるケースもあります。

イヤーワームになりやすい曲の特徴

ロンドン大学ゴールドスミス校のケリー・ジャクボウスキ博士の研究チームは、3,000 人以上の調査データを分析し、イヤーワームになりやすい曲の特徴を特定しました。

第一に、テンポが速めであること。BPM (1 分あたりの拍数) が 120 前後の曲がイヤーワームになりやすい。これは人間の歩行テンポに近く、脳が自然にリズムを刻みやすい速さです。

第二に、メロディの輪郭がシンプルで覚えやすいこと。音の上がり下がりのパターンが一般的で予測しやすい曲ほど、脳に定着しやすい。

第三に、どこか「引っかかる」要素があること。予想外の音程の跳躍や、繰り返しの中の微妙な変化など、「ほぼ予測どおりだけど少しだけ意外」な要素が、脳の注意を引きつけてループを形成します。 (音楽心理学に関する書籍で詳しく学べます)

なぜ脳は勝手に音楽を再生するのか

イヤーワームが発生しているとき、脳の聴覚野は実際に音楽を聴いているときと同じように活動しています。つまり、脳は「記憶の中の音楽」を「実際の音」と同じ回路で再生しているのです。

この「勝手な再生」が起こりやすいのは、脳が暇なときです。単調な作業中、シャワーを浴びているとき、散歩中。認知的な負荷が低い状態では、脳のデフォルトモードネットワーク (DMN) が活性化し、記憶の断片が自動的に再生されます。イヤーワームは、DMN が音楽の記憶を「つまみ食い」している状態と言えます。

逆に、集中力を要する作業中にはイヤーワームは発生しにくい。脳のリソースが作業に占有されているため、音楽の自動再生に回す余裕がないのです。

イヤーワームを止める方法

イヤーワームが気になって仕方ないとき、いくつかの対処法が研究で示されています。

最も効果的なのは、その曲を最後まで聴くことです。イヤーワームは多くの場合、曲の一部 (サビや印象的なフレーズ) だけがループしています。脳は「未完了のタスク」を繰り返す傾向があり (ツァイガルニク効果)、曲の断片が「未完了」として認識されているためにループが続きます。曲を最後まで聴くことで「完了」のシグナルが送られ、ループが止まります。

もう一つは、ガムを噛むこと。レディング大学の研究では、ガムを噛む動作が聴覚野の活動を妨害し、イヤーワームを軽減することが示されました。口と顎の運動が、脳内の音楽再生と競合するためと考えられています。

そして、別の曲で「上書き」する方法もあります。ただし、上書きに使った曲が新たなイヤーワームになるリスクがあるため、あまり印象的でない曲を選ぶのがコツです。 (脳と音楽に関する書籍も参考になります)

まとめ

イヤーワームは、脳の聴覚野が記憶の中の音楽を勝手に再生している現象です。テンポが速く、メロディがシンプルで、少しだけ意外な要素がある曲がイヤーワームになりやすい。脳が暇なときに発生しやすく、集中しているときには起きにくい。止めたいときは、曲を最後まで聴くか、ガムを噛む。次に頭の中で曲がリピートされたら、それはあなたの脳が暇を持て余して「脳内ジュークボックス」を勝手に再生しているだけです。

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