貧血の症状は「疲れやすい」だけではない - 女性の貧血の多彩な症状と治療
女性の貧血 - 見過ごされる「国民病」
日本人女性の約 20% が貧血、約 40% が貧血予備軍 (潜在性鉄欠乏) とされています。月経のある女性は毎月 30〜60mL の血液を失い、それに伴って鉄分も喪失します。食事からの鉄分摂取が不足すると、体内の鉄貯蔵 (フェリチン) が徐々に枯渇し、最終的にヘモグロビンの合成が追いつかなくなって貧血に至ります。しかし、貧血の進行は緩やかなため、体が低酸素状態に慣れてしまい、「これが普通」と思い込んで受診しない女性が非常に多いのが現状です。
疲労感以外の意外な症状
貧血の症状は「疲れやすい」「だるい」だけではありません。ヘモグロビンが減少すると全身の組織への酸素供給が低下し、多彩な症状が現れます。動悸・息切れは、心臓が酸素不足を補うためにポンプ機能を亢進させることで生じます。階段を上るだけで息が切れる、少し歩いただけで心臓がドキドキするといった症状は、心臓の病気ではなく貧血が原因であることが少なくありません。めまい・立ちくらみは、脳への酸素供給が不足することで起こります。頭痛、集中力の低下、イライラ、抑うつ気分も鉄欠乏に関連する症状です。鉄は神経伝達物質 (セロトニン、ドーパミン) の合成に必要なため、鉄不足は精神面にも影響を及ぼします。「最近なんとなく気分が沈む」「やる気が出ない」といった症状が、実は鉄欠乏が原因だったというケースは珍しくありません。
見落とされがちな鉄欠乏のサイン
氷食症 (氷を異常に食べたくなる) は鉄欠乏性貧血に特徴的な症状で、1 日にトレー 1 杯以上の氷を食べる場合は強く疑われます。メカニズムは完全には解明されていませんが、鉄欠乏が口腔内の温度感覚や味覚に影響を与えるためと考えられています。爪がスプーン状に反り返る「匙状爪 (さじじょうそう)」も鉄欠乏の古典的なサインです。爪がもろくなる、縦に割れやすくなるといった変化も見られます。舌の表面が滑らかになる「舌炎」、口角が切れる「口角炎」、飲み込みにくさ (嚥下障害) も鉄欠乏で生じます。肌の蒼白、髪の毛が抜けやすくなる、むずむず脚症候群 (就寝時に脚を動かしたくなる不快感) も鉄欠乏と関連しています。隠れた鉄欠乏の詳細については、鉄欠乏の実態を解説した記事も参考になります。
貧血の診断 - 血液検査の読み方
貧血の診断は血液検査で行います。ヘモグロビン (Hb) が女性で 12g/dL 未満の場合に貧血と診断されます。しかし、Hb が正常範囲内でも鉄欠乏が進行している「潜在性鉄欠乏」の段階があります。フェリチン (体内の鉄貯蔵量を反映) が 12ng/mL 未満の場合は鉄欠乏と判定されますが、25ng/mL 未満でも症状が出ることがあり、最適値は 50ng/mL 以上とする専門家もいます。健康診断で「Hb は正常」と言われても、フェリチンが低ければ鉄欠乏の症状が出ている可能性があります。フェリチンは通常の健康診断では測定されないことが多いため、症状がある場合は医師にフェリチンの測定を依頼してください。
鉄剤の正しい飲み方と副作用対策
鉄欠乏性貧血の治療は経口鉄剤の服用が基本です。フェロミア (クエン酸第一鉄ナトリウム) やフェルム (フマル酸第一鉄) が一般的に処方されます。鉄剤は空腹時に服用すると吸収率が最も高くなりますが、胃腸障害 (吐き気、腹痛、便秘、下痢) が出やすいのが難点です。副作用が辛い場合は食後に服用するか、1 日の用量を分割して少量ずつ服用する方法があります。ビタミン C は鉄の吸収を促進するため、鉄剤と一緒にオレンジジュースを飲むのも効果的です。一方、お茶やコーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を阻害するため、鉄剤服用の前後 1 時間は避けます。治療期間は Hb が正常化した後もフェリチンが十分に回復するまで (通常 3〜6 ヶ月) 継続する必要があります。
食事での鉄分補給 - ヘム鉄と非ヘム鉄
食品中の鉄分にはヘム鉄 (動物性食品) と非ヘム鉄 (植物性食品) の 2 種類があります。ヘム鉄の吸収率は 15〜35% と高く、レバー (豚レバー 100g あたり約 13mg)、赤身肉、カツオ、マグロなどに豊富です。非ヘム鉄の吸収率は 2〜20% と低いですが、ほうれん草、小松菜、大豆製品、ひじきなどに含まれます。非ヘム鉄はビタミン C と一緒に摂取すると吸収率が 2〜3 倍に向上します。レモン汁をかけたほうれん草のサラダ、納豆にキムチを添えるなどの組み合わせが効果的です。1 日の鉄分推奨摂取量は月経のある女性で 10.5mg (18〜64 歳) ですが、日本人女性の平均摂取量は約 7mg と不足しています。休んでも取れない疲労感については、休息では回復しない疲労の原因を解説した記事も参考になります。鉄分補給の関連商品は Amazon でも探せます。
月経過多と貧血の関係
貧血の原因として見落とされがちなのが月経過多です。1 回の月経で 80mL 以上の出血がある場合を月経過多と定義しますが、自分の経血量を正確に把握している女性は少数です。目安として、昼用ナプキンが 1 時間で満杯になる、夜用ナプキンでも漏れる、レバー状の血の塊が頻繁に出る、月経が 7 日以上続くといった場合は月経過多の可能性があります。月経過多の原因には子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、凝固異常などがあり、婦人科での精査が必要です。月経量が多い方は、月経過多の原因と対処法を解説した記事も参考になります。貧血対策の関連書籍は Amazon でも見つかります。
貧血を放置するリスク
貧血を「たかが貧血」と放置すると、心臓への負担が慢性的に増大し、長期的には心不全のリスクが上昇します。妊娠中の貧血は早産や低出生体重児のリスクを高めます。鉄欠乏は免疫機能の低下にもつながり、感染症にかかりやすくなります。仕事や学業のパフォーマンス低下、運動能力の低下、生活の質の全般的な低下も見過ごせません。「疲れやすいのは体質」「年齢のせい」と決めつけず、一度血液検査を受けてみることが、生活の質を劇的に改善する第一歩になるかもしれません。