ウェルビーイング
単なる幸福感ではなく、心理的・社会的・身体的に充実した状態の総体。「幸せを追い求める」ことではなく「意味ある生を営む」ことに焦点を当てる点で、日常的な幸福の概念とは一線を画す。
主観的ウェルビーイング - ディーナーの研究
ウェルビーイング研究の出発点は、エド・ディーナーによる主観的ウェルビーイング (SWB) の概念化だ。ディーナーは SWB を 3 つの要素で定義した。人生全体への満足度 (認知的評価)、ポジティブ感情の頻度、ネガティブ感情の少なさだ。重要なのは、ディーナーが「幸福の強度」ではなく「頻度」を重視した点だ。稀に訪れる強烈な歓喜よりも、日常的に感じる穏やかなポジティブ感情の方がウェルビーイングへの寄与が大きい。また、ディーナーの研究は、所得とウェルビーイングの関係が一定水準を超えると急速に弱まることを示し、物質的豊かさだけでは持続的なウェルビーイングを実現できないことを明らかにした。
心理的ウェルビーイング - リフの 6 次元モデル
キャロル・リフは、ディーナーの主観的ウェルビーイングが「気分の良さ」に偏りすぎていると批判し、心理的ウェルビーイング (PWB) の 6 次元モデルを提唱した。自己受容、他者との肯定的関係、自律性、環境制御力、人生の目的、人格的成長の 6 つだ。リフのモデルは、アリストテレスのエウダイモニア (人間としての卓越性の発揮) に根ざしており、「気分が良い」ことよりも「よく生きている」ことを重視する。例えば、困難な課題に取り組んでいる最中は気分が良いとは限らないが、人格的成長や人生の目的の観点からはウェルビーイングが高い状態にある。
社会的ウェルビーイング - キーズの貢献
コーリー・キーズは、個人の内面に焦点を当てた既存のモデルに社会的次元を加えた。キーズの社会的ウェルビーイングは 5 つの要素で構成される。社会的統合 (コミュニティへの帰属感)、社会的貢献 (自分が社会に価値を提供しているという感覚)、社会的一貫性 (社会が理解可能で予測可能だという感覚)、社会的実現 (社会が良い方向に発展しているという信念)、社会的受容 (他者への信頼と肯定的態度) だ。キーズはさらに「メンタルヘルスの連続体モデル」を提唱し、精神疾患の不在がウェルビーイングを意味するわけではないことを示した。
ウェルビーイングは幸福の追求ではない
ウェルビーイング研究が一貫して示す逆説的な知見は、幸福を直接追い求めることがかえってウェルビーイングを低下させるということだ。アイリス・モースの研究は、幸福を高く評価する人ほど孤独感が強く、抑うつ傾向が高いことを示した。幸福を目標にすると、現在の感情状態を常に監視し、「十分に幸せか」と自問し続けることになり、この自己監視自体がウェルビーイングを損なう。マーティン・セリグマンの PERMA モデル (ポジティブ感情、エンゲージメント、関係性、意味、達成) が示すように、ウェルビーイングは幸福感という単一の感情ではなく、意味ある活動への没頭、他者とのつながり、目的の追求といった多面的な営みの副産物として立ち現れるものだ。
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